ささやかに、heart beat

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お兄ちゃんが顔をあげた。 その瞬間、驚いたように息をつまらせた。 「……さく、ら……」 お兄ちゃんの顔が目の前にある。 息がかかりそうな距離。 二人の前髪がふれそうだ。 「……っ、あ、ご、ごめん、お兄ちゃん!」 しまった。 つい近づきすぎてしまったみたい。  慌てて伸ばしていた手を引っ込め、後ろに下がった。 「あ、あの、えーと……お兄ちゃんの目のところのケガ、もう大丈夫かなって思って……それで……っ」   必死に弁明するものの、ただの言い訳だ。 まずい。 これはお兄ちゃん絶対に怒る。 ウザイとか、馴れ馴れしくするなとか。 とにかく間違いなく嫌がられるだろう。 「あ、あのっ、とにかく!ごめんねっ」 「…………」 「お、お兄ちゃん……?」 返事がない。 それくらい怒っているのだろうか。 「……い、から」 「え?」 「……いいから、別に」 「…………」 お兄ちゃん……? てっきり何かいろいろ言ってくると思ったのに。 いつもみたいな眉間にシワをよせて不機嫌な顔をすると思ったのに。 それなのにお兄ちゃんは 私から目をそらすようにそっぽを向いて そして 顔を赤く染めていた。
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