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相変わらず雨が降る気配もなく、カラカラの空の下、私たちが植えたミニトマトとバジルはぐんぐん育っている。私の一日は水やりからはじまる。
コンパニオンプランツ。一緒にいるだけでお互いにいい効果をもたらす。
相性のよさってきっとこういうことを言うのだと思う。私たちは恋人関係ではないけれど、一緒に暮らすにはとてもいい相性なのだ。
この関係を壊してはいけない。大切にしたい、と思った。
その日の夕方、いつものように買い物に出かけようと私は自転車を押して庭から出た。すると、近所で甲高い声が聞こえてきたので驚いてそちらへ顔を向けると、恵美子さんが怒りの形相で叫んでいた。その相手は理久くんだった。
「今すぐ、帰りなさい!」
はじめて見る恵美子さんの怒った顔。そして怒られて逃げるように走り去る理久くん。しかし理久くんは私に気づくといきなり近づいてきて声をかけてきた。
「朔也ちゃん、あのババア止めてよ!」
「ババ……って、ちょっと、言い方!」
「頼む! かくまって」
「はあ?」
理久くんは私の背後に隠れるようにして恵美子さんから逃れようとする。そして恵美子さんは私と目が合うと強張った表情で笑顔を作った。
「あら、朔也ちゃん。こんにちは」
「こんにちは。何事ですか?」
訊ねると恵美子さんはまたもや鬼のような形相で私の背後を睨んだ。
「このバカ息子、お嫁さんと喧嘩したらしいのよ。理久! 離縁されないうちに帰って謝りな!」
「うるせーな。怒鳴るなよ」
「だいたい、お嫁さんと喧嘩したくらいで実家に逃げ込む男があるか! あんたにはタ〇がついてないのかい?」
公の場で堂々と放つ恵美子さんの発言に私は脳内で規制音をかけておいた。
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