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「めんどくせえ。女ってうるさいな。朔也ちゃんもそうなの?」
急に振られても困る。だけど、ここは恵美子さんに同意したい。
「喧嘩したのなら、ちゃんと話し合ったほうがいいよ。お互いに喧嘩できる程度なら大丈夫だと思うから」
すると、理久くんはうんざりした顔で大きなため息をついた。
「朔也ちゃんもやっぱりそっちの味方か。まあ、そうだろうな」
「私はどちらの味方でもなく、第三者として意見しているだけだよ」
「くっそ。女ってみんなめんどくせー」
そう言いながら舌打ちする彼に、恵美子さんの怒号が飛ぶ。
「お嫁さんを大事にしない男は捨てられるよ!」
「わかったよ! 帰るよ。ちゃんと話すから」
そう言って、理久くんは恵美子さんが持っていた大きなバッグを奪い取り、私に複雑な笑みを向けた。
「じゃあ、朔也ちゃん。またね」
「うん。ちゃんと仲直りするんだよ」
「わかったよ」
理久くんは恵美子さんの顔は見ずに、小走りで立ち去っていった。彼の姿が見えなくなると、恵美子さんがはあっと大きなため息を吐いて私に声をかけた。
「あの子ね、共働きなのに家では何もしないんですって。それでお嫁さんに怒られて逃げてきたのよ。情けないったら」
「なるほど。それはいけませんね」
と私は正直な感想を述べた。
恵美子さんは腕を組んで、理久くんが立ち去った方向を見据えたまま苦笑する。
「まあ、そう育てたあたしが悪いんだけどね。掃除くらいはまともにできるようにさせておけばよかったわ」
確かに。少しでもいいから掃除する能力はつけてほしいな、と私は別の人のことを考えながら恵美子さんに同意した。
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