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「あたし、やっぱりウザイ母親なのかしらね?」
恵美子さんが不安げな表情で訊くので、私は冷静に思ったことを口にした。
「理久くんにとってはそうかもしれないですね」
「ああ、やっぱり。結婚したからできるだけ口は出さないようにしてるんだけど、どうしてもね」
自分の頬に両手を当てて困惑する恵美子さんを見て、私は不謹慎ながらも「ああ、いいなあ」と思った。
「恵美子さんみたいなお姑さんだったら、お嫁さんは心強いと思いますよ」
「そうかしら?」
恵美子さんは両手を頬に当てたまま、私に顔を向ける。
「義母が味方になってくれるなんて、なかなかないですからね」
「そりゃもう、いつ捨てられるんじゃないかってひやひやしてるわ」
「大丈夫ですよ。理久くんなら」
「そう? 朔也ちゃんにそう言ってもらえたら安心だわ」
理久くんは素直だ。そして頼りなさげに見えるけれど、きちんとまわりが見えている。叱ってくれる人もいるし、その意見もきちんと受け入れられる。
当たり前のことなのに、それができない人はたくさんいる。
私は理久くんのお嫁さんを少し羨ましく思った。私もそんな人と夫婦になれていたら、人生は違ったものになっていただろうに。
そんな、ありもしないことを想像して、落胆する自分に嫌気がさす。
やっと、前向きになれてきたところなのだから、私は私でこの生活を守るために、努力しなければならない。
「じゃあ、私は買い物に行きますので」
そう言って軽く会釈をすると、恵美子さんは「ありがとね」と言って手を振りながら自宅に戻っていった。
私は自転車に乗って、いつものように、夕方の割引セールを狙ってスーパーへと向かった。
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