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日が暮れた頃、私たちは近くの河原へ向かった。家からそれほど離れていない場所に大きな川が流れていて、そこで花火が上がるらしい。家族連れやカップルや、子供たちが楽しそうにしながら歩いていく様子を見ると、おそらく私たちも同じように見えているのだろうなと思った。
孔明さんは外着に着替えることなく、今日一日家で着ていた烏羽色の浴衣そのままで出てきた。
「今日は着物じゃないんですね」
「あなたが浴衣ですからね。それに、その色合いに合わせるにはちょうどいいものを着ていたので」
彼は私の浴衣に目をやり、そう言った。
私の白地に赤とブルーの柄という明るい浴衣に対し、彼のほうはまるで影のように暗い。だからこそ、私が映えて見える。けれど、暗い夜道だと万が一はぐれてしまったら見つけにくいだろうなあと思った。
だんだん人が多くなってくると、太鼓や鈴の音が聞こえてきた。屋台の明かりがたくさん並び、人々の笑い声が響きわたる。近づいていくうちに私の胸はだんだんと高まっていき、子供の頃の記憶がよみがえってきた。
子供の頃、浴衣を着て父と一緒に並んで歩いた。
それっきり、お祭りに行く機会はまったくなかった。
そうか、私……男の人とふたりでお祭りに行くの、はじめてなんだ。
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