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河原に沿ってぞろぞろと人の流れができている。私はその中から出て、子供たちが列を作る屋台に自分も並んだ。そして大きな綿あめを購入して、孔明さんのいるはずの場所へと振り返った。
「……あれ?」
彼は先ほどまでいた場所にはいなかった。
どこへ行ったのだろうかときょろきょろ見まわしてみたが、この人混みの中から探し出すのは至難の業だ。おまけに彼は全身真っ黒な格好だから夜の中では特に目立たない。
しばらく周囲に目を走らせていると、突然手を握られた。
「こっちです」
と孔明さんが人と人のあいだから姿を覗かせた。
「あ、すみません」
「足下に気をつけてください」
下を見るとたくさんの人の足がうごめいている。私は他人の足に引っかからないようにしながら孔明さんに近づいた。というよりは、手を引かれて引き寄せられたと言ったほうが正しい。
「迷子にならないでくださいね」
と彼は笑って言った。
「迷子になったら家に帰りますから」
「そうしてください」
孔明さんはゆっくりと私の手を放した。
どうしよう。なんだか妙に落ち着かない。
人々の笑い声、太鼓や鈴の音、そしてぽーんと空高く舞い上がる最初の花火。人々がパッと明るくなった空を見て歓喜の声を上げる。
私も空を見上げる。
だけど、私は周囲の喧騒よりも自分の鼓動のほうが大きく響いて、そわそわしていた。
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