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屋台のある通りから離れていくとだんだん混雑は解消されてきたが、やはりたくさんの人が道路脇にレジャーシートを敷いて座っていたり、その背後には立ち見の人たちがずらりと並んでいる。
花火がよく見える場所はどこへ行っても人が多い。
ようやくほとんど人のいない場所を見つけてそこで立ち止まった。観覧場所としてはいまいちだが、まったく見えないこともない。
私たちは静かに花火が上がるのを待ち、空を見上げていた。
そのとき、孔明さんの近くにいた家族が急に騒ぎ出した。
「おいっ! 何してんだ?」
男の怒号がして周囲が一斉にその家族へ視線を向けた。
レジャーシートに座った3人家族。怒りの形相の男と、転がった缶から泡とともに流れ出るビール、濡れた男のズボンをハンカチで拭こうとする女、そしてその女にくっついている幼い男の子だ。
「ちょっと手が当たっただけじゃない。子供のしたことだから許してよ」
と女が言うと、男はさらに声を荒らげた。
「子供だからって許されることじゃねぇだろ! まだひと口しか飲んでねぇんだぞ!」
「ちょっと、声が大きいよ。静かにして!」
「うるさい! 今すぐ買って来い!」
腹の底に響くような男の声のあと、その子供が「わああああっ」と泣き出した。すると男は怒りのせいか、自分の目の前に置いてあった焼きそばの容器を地面に叩きつけた。その瞬間に焼きそばの麺があたりにバラバラと散らばった。
「黙らせろ! お前のせいだからな! 胸クソ悪ィ! 帰る!」
男はそう言い放つとふたりを残してさっさと立ち去ってしまった。
残された女は子供の背中を撫でながらぼそりと呟く。
「……どうしていつもこうなっちゃうんだろ」
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