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帰宅する道中、少し気まずかった。せっかくの楽しい空気を私が壊したような気がしたのだ。私たちは花火が上がる音を背後に、人々の流れに逆らって歩く。私は孔明さんの少しうしろを歩きながら少なからずショックを受けていた。
こんなに頻繁に過呼吸を起こしてしまうなんて、これからどうすればいいのだろう。一体いつになったら治るの?
さすがに彼もおかしいと思っているに違いない。これ以上、隠したままでいられるのだろうか。この状態が何度も続いて解雇されてしまうことになったら、また新しい仕事を探さなければならないなあと思う。
だけど……。
私はできればこの人と、一緒にいたいと思っている。
コンビニの前を通りかかると多くの人が缶のお酒を手に持って談笑していた。
「何か食べる物を買っていきますか?」
と孔明さんが振り返って訊ねた。
そういえば、結局私は綿あめしか食べていないし、彼は何も口にしていない。
「あの、帰って食事を作りますよ」
「駄目です。今夜、朔也さんはお休みですから」
孔明さんは静かに微笑んでそう言った。そして彼はひとつの提案を口にする。
「よかったら、晩酌でもしますか?」
「わっ、いいですね。したいです」
無性にお酒が飲みたい気分だった。
「体調は大丈夫ですか?」
彼はいつでも私のことを気遣ってくれる。ほんの小さなことでも、私はいちいち嬉しくなる。
「はい。人混みを抜けたらすっかり元気になりました」
私がはっきりと答えると、彼は「よかった」と言って笑顔になった。
その表情と穏やかな口調が、重い空気を一掃してくれた。
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