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「今夜は満月なのかなあ」
と言うと、孔明さんは窓の外をちら見して静かに答えた。
「少し欠けているのではないでしょうか」
「そっか……」
私は目を凝らして丸い月を観察してみたけれど、確認する前に次の花火が打ち上がり、空はぱあっと明るくなった。
孔明さんは座布団の上にきちんと正座をして、トレーの上にあるふたつのグラスに白ワインを注いでいる。私は自分が手伝うことも忘れてその光景に見入ってしまった。
暗くて狭い部屋の中でぼんやりと灯る暖かい照明と、花火が打ち上がるたびに光る空が、ひと足早い夏の空気を漂わせている。
和紙の提灯、浴衣姿、畳の上に座る私たち。
まるで時代を溯ったかのような幻想的な空間に、お酒を飲んでいないうちから酔いしれてしまいそうになる。
「朔也さん、どうぞ」
とグラスを差し出され、私はそれを受けとった。
「ありがとうございます」
私たちは静かに乾杯をした。
ひと口飲むとじわりと喉が温まった。
「あーおいしい」
「朔也さんは結構飲めるんですね。あまり飲んでいるところを見かけたことがないので飲めないのかと思っていました」
「普段は飲みませんね。でも嫌いじゃないです」
「そうですか。では、たまにはこうして一緒に飲みましょうか」
「はい。ぜひ、そうしたいです」
私は一気にワインを飲み干してしまった。
花火はどうやら佳境に入ったらしく、連続で打ち上げられている。
私は別のお酒をおかわりして、窓の外に目を向ける。
熱を帯びた頬に涼しい風が当たって心地よかった。
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