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「すごーい、特等席ですね」
次々と打ち上げられる花火を見てつい感嘆の声を上げてしまった。
そして斜め下に顔を向けると、数人が集まって庭でわいわい騒いでいるのが目に映った。
「あ、向かいのおうち、バーベキューしてる!」
「あの位置からだと花火が見えますからね。うちの庭からは少し見え辛いので残念です」
孔明さんは静かに腰を上げると私のとなりに移動し、窓の外を見下ろす。私はそばにいる彼を見上げて妙に、不思議な感覚に囚われた。
この人、こんなに大きい人だっけ……?
「花火が見える位置ならうちでも庭で宴会ができるのでしょうが……」
孔明さんはそう言いながらこちらに笑顔を向けた。
近いなあと思った。そうだ、近いから大きく見えているんだ。いつもは一定の距離を保っているから気づかないだけで、当たり前だけどこの人は男の人で私よりおよそ20センチも身長が高くて、それに窓枠に置かれた手が大きいし指が長いしやっぱり角ばっていてしっかりしている。
女に興味がないと言っても体つきは男なんだなあって思う。
「朔也さん?」
「え……」
「大丈夫ですか?」
しまった。ぼうっとしていた。
「はい。ちょっと想像していたんです。前みたいにみんなでバーベキューをしながら花火が見られたら楽しいだろうなって」
孔明さんは微笑んだまま、私から離れて自分のグラスを手に持ち、ひと口お酒を飲んだ。そして私とは別のところへ視線を向けて、静かに言った。
「僕はこうして今、朔也さんと過ごしているだけで楽しいですよ」
思いがけない言葉に、私はどきりとして言葉を失った。
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