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この人といると不思議なほど落ち着く。
海の中に放り出された体がまるで波の上で浮かびながらゆらゆらと揺れている感覚なのだろうか。行き着く先はわからないのになぜか安心していられるのだ。
例えるならば誰かを好きになったとき、打ち寄せる波に向かいひたすら体力の続く限り泳ぎ続けるということに対し、孔明さんとの関係はまるで逆なのである。
「孔明さんといると、落ち着きます。私は少し落ち着きのないところがあるのですが、あなたのそばにいると常に穏やかでいられます」
孔明さんは「そうですか」と言って微笑んだ。
ああ、好きだなあと思った。
私は彼のことが好きである。ただそれは、恋愛という意味とは少し違うような気がする。それが何かは自分でもはっきりとはわからない。
居心地のよさなのか、なぜか惹きつけられるオーラなのか、それとも単に変わっている人だから興味を持っているのか。
「僕は空気を壊さない人が好きです」
ふいに孔明さんがそんなことを言った。
「え?」
「緩やかな風を感じているときに突然嵐に見舞われるようなことになると誰でも心を乱されるでしょう? しかし、多くの人は刺激を欲し、緩急の激しい事象に悦楽を求める。だから僕は求められているものを書く。けれど……」
孔明さんは目を細めて口もとに笑みを浮かべたまま静かに語る。
「僕自身は凪のような世界でただじっと浮かんだまま、静かに過ごしたいと思っています」
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