5、境界線を越えた夜

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 本能って恐ろしいと思う。  普段からどれだけ理性を保っていようとも、何かの要因でいとも簡単に崩れてしまう。それがアルコールのせいなのか、私の精神状態のせいなのか、いろいろな理由はあると思うけれど、本能が(まさ)ったときにそれに抗う術などない。  私は彼の浴衣の襟元に手をかけてゆっくりと開いていった。するりとはだけた布地から肩がさらけ出され、肌の色が広がった。 烏羽(からすば)色からだんだんと明るい肌の色へ変化していくうちに私の体は一層熱を帯びて欲求が高まっていった。  触れたいと思った。だから、彼の首筋から鎖骨にかけて指でなぞっていった。彼は何も言わずに、代わりにため息のようなものを漏らした。  そして彼は私の髪に触れて、それから指先で軽く撫でる仕草をした。それがとても気持ちよくて体の力が抜けていき、私は彼に寄りかかった。  孔明さんは私の背中を抱きかかえ、私の顔を覗き込んだ。彼の表情からは笑みが消え、少し深刻な顔つきをしている。躊躇しているのかもしれない。それとも、これからどうしたらいいのか迷っているのか。  彼の上半身は裸である。当たり前だ。私が脱がせたのだから。  彼が指先で私の首筋に触れたとき、私の体が反応した。それに少し驚いた彼はとっさに手を離そうとしたが、私はそれをつかんで阻止した。 「やめないで」
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