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閉め切った窓の外からかすかに聞こえる花火の音がいつまで経っても止まないので、おそらくフィナーレなのだろう。
花火、終わっちゃうな。きっとラストはすごく盛り上がるんだろうな。見たほうがよかったのかなって少し思ったりした。
それでも今の私にとってはそれほど重要なことではなかった。
「セクハラになりますか」
とたいして悪びれた様子もなく、彼が言った。
「双方合意の上でなら問題ないと思います」
と私は冷静に返した。
そうしたら孔明さんは軽く吹き出した。
「僕の身に何かあったら困ると言ったのに……」
そんなことも言っていたなあと最初に会った頃を思い出し、私もおかしくなって笑った。
「ごめんなさい。襲いたくなっちゃった」
上目遣いでそう言うと、彼は苦笑しながら再び私の髪をくしゃくしゃと撫でた。なんて心地いい手だろう。もっとたくさん触ってほしい。
「さすがに自制がきかなくなります」
「やっぱり、女に興味がないなんて嘘なのね」
「それは、複雑な事情があるのです」
「でも、嫌いじゃないのよね?」
「そうですね。嫌いではないです」
彼の指は私の髪からするすると降りてきて、そのまま私の頬を撫でていく。
私はずいぶんと近くなった彼の顔を見つめて、そっと腕を伸ばし、彼の肩をつかんだ。
彼は遠慮がちに私の唇に触れる。その指先があまりにも繊細で、優しくて、それが余計に情欲をかき立てるのだ。
目を閉じるとわずかな花火の音だけを耳で感じた。けれど次の瞬間、しっかりと唇の重なる感触があった。
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