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彼は私をふかふかの座布団の上に寝かせると、すぐにまた口づけをした。
目を閉じるのがもったいないと思った。こんなに近くで彼の顔を見ることなんて滅多にないから。けれど、そんな雑念もすぐに吹っ飛んでしまうほど、烈しい陶酔感が私を包み込んだ。
彼はまるで壊れやすいものを扱うかのようにそっと軽く私の体に触れる。こんなに大切にされたことなんてないから、くすぐったくて慣れなくて、変な気持ちだった。それがだんだんと快感に変わっていくときには、変に刺激をされるよりもずっと大きな悦びを感じた。
私が苦痛に見悶えていると思ったのか、彼は「大丈夫?」と訊ねてきた。私は笑って何度も小さく頷いた。大丈夫どころか、元夫に乱暴に抱かれたことしかないこの体に沁みついた傷を丁寧に癒してくれているのだから、この上なく私は満たされている。
私の体は驚くほど素直に順応し、溶け込んでいった。
今まで感じたことのない繊細で密やかな感覚だった。
何も考えられない。考える必要などなかった。
空気が熱を帯びて視界が揺らぐ。
忘我の中で無意識に遠いところへ目を向けて、私は不思議な幻覚を見た。燃えるような黄金色の風景に楼閣がそびえ立ち、艶やかな蝶が舞い踊るのだ。
きっと極上の愉しみに耽っているのだろうなあと思った。
そういえば、私は花火の音が消えたことに気づくことはなかった。
と言うよりもすでに、忘れてしまっていた。
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