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今日の朝食は玉子焼きと小松菜炒め、タラの塩焼き、そしてしじみ汁だ。主も昨夜は相当お酒を飲んでいるはずだから、軽めの食事がいいかなと思った。
テーブルに料理を並べていると、廊下から物音がしたのでどきりとした。
平常心、と胸中で呟く。
孔明さんは昨夜とは違う紺青の浴衣をゆったりと着ていて、後頭部には思いっきり寝癖がついていた。
「おはようございます」
と私は背筋を伸ばし、しっかりとした声で挨拶をした。
彼は一瞬驚いたような顔をしたが、頭をかきながらわずかに微笑んで会釈をした。
「おはようございます」
と彼は寝惚けたような声でゆっくりと言った。
なんだ。ぜんぜん、大丈夫だ。このまま普通にいつもどおり過ごしていればいい。
温かい白飯を茶碗に盛り、しじみ汁をテーブルに置いた。
「いただきます」とふたりで言って、食事をはじめる。しかし、そのあと妙な沈黙が訪れ、なんだかそわそわした。ちらりと孔明さんを見ると、彼はずっと目線を下に向けたまま黙々と食事をしている。
私は業務的な話をすることにした。
「今日はいつもどおり、お仕事ですか?」
私はほぐしたタラの身をご飯に乗せながら訊ねた。
「……そうですね」
と彼は静かに答え、しじみ汁を飲んだ。
「昼食も、いつもどおり用意しておきますね」
私は淡々とそう言って、ご飯をひと口食べた。
孔明さんは汁椀をテーブルに置いて小さなため息をつく。
「……少し、遅くなるかもしれません」
私はちらりと彼を見て「わかりました」と答えた。
会話が、ぎこちない気がする。
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