6、崩れた雇用関係

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 私はいつもどおり掃除と洗濯を済ませてから昼食の準備をしようとした。すると、玄関で物音がしたので不思議に思い、キッチンを出た。  書斎にいるはずの孔明さんが出かけようとしているところだった。 「お出かけですか?」  と私が訊ねると彼は背中を向けたまま答えた。 「必要な文具を購入してきます」 「そうですか。気をつけて行ってきてください」 「ええ、では」  彼は少しだけ顔をこちらへ向けて軽く会釈をしてから出かけていった。残された私はなぜかしばらく足が動かなくて、すでに誰もいなくなった玄関先をひたすら見つめた。  虚無感のようなものが押し寄せて、何もない玄関がいつも以上に広く感じる。私は壁にちらりと目を向けて『一期一会 』を見つめた。  そしてまた、視線を戻して軽いため息を漏らした。  孔明さんが私を見ない。  向こうは私以上に気まずいと感じているのだろうか。しかし、起こってしまったことは仕方のないことだし、そもそもお互いに三十路を過ぎたいい大人なんだし、一度体の関係があったくらいでそんなに落ち込むようなことかな。どちらかが拒んだのならまだしもお互いに(酔ってはいたが)合意の上で(おこな )ったことだし、それに……。 「……悪くなかったし」  実は記憶は(おぼろ)げなのだが、少なくとも私はとても満たされた、と思う。 「あ、もしかして……向こうはよくなかったのかな」  だったら話は別だ。  それに、私たちはそういう関係ではないのだし、もうこんなことは起こらないようにしなきゃいけない。  とにかく、彼が帰ってきたら話し合いをしようと思った。
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