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なるほど、女の私がひとり暮らしの男の家に住み込みで働くということを躊躇しないどころかあっさり採用してしまうから少し警戒すべき相手ではないのか……と訝った私はあながち間違ってはいなかったということだ。
私にこの仕事を紹介してくれたのは、追い出されそうになったアパートの大家さんの親戚の友達の息子の会社関係者の祖父か祖母(すでに覚えていない)だったので、多少不安ではあったのだが。
「すみません、名前のせいですね」
朔也という名はだいたい男をイメージさせる傾向があるというのは幼い頃から嫌というほど間違えられてきたから理解する。
「いや、履歴書は必要ないと言った僕に責任があります。やはり知人の知人の知人からの紹介とは言え、きちんと書類はいただくべきでした」
あなたもか。
私は平静を保ったまま、胸中で呟いた。
「いいえ、私も同じようなものですので、あなたを責めることはできません。お互いにほとんど知らない人からの紹介だったんですね」
私は努めて笑顔で言った。
「危ないですね。近年は顔の知らない異性と出会って事件に巻き込まれることも多いので、気をつけたほうがいい。特に、こうして自宅で会うとなればなおさら……」
彼が目を細めながらじっと見つめるので、不覚にもどきりとしてしまった。
年齢は37歳だと聞いていたが、見た目は30代前半で私とそう変わらないような雰囲気だ。
「私は大丈夫ですよ」
だってバツイチ三十路だし。
私にはもう、守るべき操もないのだから。
「あの……僕の身に何かあっては困るのですが」
そっちかーい。
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