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私は斜め前の白川さんに目を向けてその顔をじっくりと観察してみた。
よく見たらうっすら髭も生えているし、寝癖も派手についているし、髪の毛が油分で艶やかなのでおそらく昨日はシャワーを浴びていないのだろうと察する。
着ているものも洗濯をしているかどうかわからない。近くに寄って匂いを嗅ぐ勇気はないのである程度の距離を保ったまま話す。
「わかりました。家事はすべて私に任せていただいて、白川さんはどうぞ気にせず机にかじりついてください。邪魔はしないよう、なるべく音は立てないようにしますから」
「そうしていただけると非常に助かります」
白川さんは遠慮がちな笑顔を私に向けると、足下の瓶に転びそうになりながらリビングを退出した。
残された私はこの惨状を見てため息をつく。どうやったらこんな漫画みたいな絵面になるのだろうか甚だ疑問である。
物を置くということと捨てるということの区別をすることさえも困難なほど時間がないのか。ゴミ箱に入れればいいだけじゃないか。
そんなことを思いながら白川さんが転びそうになった空き瓶を拾い上げると、ラベルには【オトコのげんき】と表記されていた。
「……ん?」
いろいろと疑問はあるが、とりあえず仕事をするために私はTシャツとジャージというラフな格好に着替えた。
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