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「ねえ、朔也ちゃんはこの家で暮らしてるんだって?」
理久くんの友人に訊かれてどきりとした。だが、それは真実なので「そうだよ」と返した。すると彼らは少し驚いた様子で、予想どおりの返しをくれた。
「やっぱり彼女?」
「結婚する予定とかあるの?」
そうか。やはり、ひとつ屋根の下で男女がふたりきりで暮らすと誰もがそういう考えになるのだな。しかし、だ。この家の主は私に……いや、リアルな女に興味がないし、私だって彼をそういう目で見たことなんか一度もない。
きっと彼らには恵美子さんからの勝手な思い込みの情報が植えつけられているのだろう。
しかし、恵美子さんのお見合い攻撃から逃れる策を講じている今とあっては、ここで否定するのはおかしくなる。
ということで。
「今は考えてないよ。この先は、まだわからないかな」
否定はせず、はっきりと肯定もしない。
当然、彼らの中では盛り上がり、白川さんにとうとう春が来たと騒いだ。そうなると女性陣が「なになに?」と興味本位に近づいてきて、恵美子さんがさらに盛り上げてくれるのである。
「あたしは、ふたりがそうなるって当初から予感はしてたのよー」
わあっと周囲が声を上げた。
ちょっと面倒だなと思い、私は余計なことは言わずにすっと立ち上がって追加の食材を取りにキッチンへ行くことに……つまり逃げることにした。
しかし。
「周囲が騒ぎ立てると上手くいくものも上手くいかなくなりますよ」
白川さんが淡々と言い放った。
彼のそのたったひと言で、周囲は静かになった。そして女性陣は「いいなあ」とか「お似合いね」などと言ってくれた。
お似合いかどうかはわからないが、私たちは『結婚をしない人生』ということでお互いに一致していることは確かだ。
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