4、近づいていく距離

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 昼を過ぎた頃から陽射しがさらに強くなると、女性陣は屋内へ避難した。恵美子さんと50代の女性は用事があるからと帰っていき、残ったのは20~30代の女性ばかりだった。リビングのテーブルを囲んでソファに並んで座る人と床に直接座る人で集まり、みんなが持ってきてくれた焼菓子を食べながらコーヒーを飲んだ。  彼女たちは白川さんの昔話をしてくれるので、私はそれに聞き入った。白川さんは今とそれほど変わらなかったらしく、驚くような情報はなかった。だがしかし、私にはとても気になっていることがある。 「あの、白川さんの字がどうしても読めないんだけど、やっぱり私が読めないだけなのかな?」  すると女子たちは目を丸くして、それから急に吹き出した。 「そうそう。あたしたちも読めない」 「だって先生の字、独特すぎるもんね」 「あたしたち、こうめい文字って呼んでるんだよね」  彼女たちの話を聞いて、私は安堵した。  なんだ、私だけじゃないんだ。 「それで教室なんかやってて大丈夫だったの?」    私はさらっと本音を漏らしてしまった。  すると彼女たちは笑いながらも補足した。 「あのね、私たちに教えるときはすっごく綺麗に書くの。それこそ教本どおりにね。でも、自分の作品を書くときはこうめい文字なの」 「下手なわけじゃないの。個性が強すぎて読めないの」 「行書をぐちゃぐちゃにした感じだよね」 「一見、汚く見えるんだよね」 「メモ書きは普通に汚いでしょ」 「楷書で書いてほしいよね」    結論。結局白川さんの字は読めないということだ。
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