4、近づいていく距離

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「そうですか。それならよかったです。喜多さん、よかったら休憩がてらお茶でも飲みませんか?」  白川さんがにこやかに言うので、私は半眼で彼を見据えた。 「疲れているので今から茶道をはじめられても困ります」 「……嫌だなあ。そんな意地悪はしませんよ。本当に、お茶を飲むだけです」  彼は少し困惑した表情で笑った。  ダイニングテーブルには女子たちが持って来てくれた有名店の焼菓子が残っていたので、それをお茶請けにして、私は紅茶を淹れた。とは言え、私はもうたくさん食べたので紅茶だけいただくことにする。  ほわっと湯気の立つ紅茶のカップを白川さんはゆっくりとした動作で手に持ち、口に運んだ。私も同じようにして紅茶をひと口飲んだ。  うん、やっぱり私はこういうティータイムのほうが落ち着く。 「喜多さん」  静かに紅茶のカップをソーサーに置いた白川さんはなぜか真剣な表情で私を見ていた。 「はい?」  と私は短く返答した。  白川さんは少し遠慮がちに話をはじめた。 「実は、少し心配でした。彼らがあなたに失礼なことを言ってはいなかったかと」  そんなことを気にしていたなんて、ちょっと驚いた。  私は冷静に返す。 「特にそんなことはなかったですよ。みんな気さくに話してくれて、私も気楽な気持ちで接することができましたし、大丈夫です」  そう言ったのに、白川さんはなぜか困惑したような表情を浮かべて、私をじっと見る。会話が途切れて不思議な沈黙が訪れると、庭先からカラスの鳴き声が聞こえてきた。  そういえば今夜の食事はどうするのだろう。結構お腹いっぱいだから軽い夜食でいいのかな、などと考えていたら白川さんがゆっくりと口を開いた。 「理久くんは……」 「え?」  なぜここで理久くんの名前が出てくるのだろう。
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