6人が本棚に入れています
本棚に追加
エナジードリンクとテーラードジャケット
彼の遺影を見上げて、私は呆然としていた。
正直なところ、もしかしたらこういう日が来るかもしれない、という予感はあった。
彼が不健康なクリエイターの典型例だったからだ。
SNSでよく見る、早死にするパターンのクリエイター、というものに彼はことごとく当てはまった。
このまま放置すれば彼は数年以内に体を悪くするだろう。
だから私は彼の生活習慣を管理するためにも結婚したいと思っていた。
彼はなんだかんだ言って先延ばしにしようとしているけれど、期限は三十歳まで。
私たちは今二十七だから、あと三年間。
そう思っていたところで、彼は逝ってしまった。
彼の葬儀がしめやかに行われる。
親族の側には、人目をはばからず嗚咽を漏らす彼の父、魂の抜けた真っ白な顔の彼の母、薄く口を開けて斜め下を見つめる彼の弟、そして私にとっては初めて対面する親戚の方々がいた。
私は親族ではなく友人側の席にいた。
私と彼の交際期間はのべ十二年に及んだ。けれど入籍はしなかったので結局親族側には入らなかった。
彼の家族は私のことをよく知っている。だから、昨日のお通夜の時、こちら側に来てくれても構わない、と言ってくれた。
それを拒んだのは私自身だ。
理由は今でもよくわからない。彼を止められなかった罪悪感とか、彼が止まってくれなかった怒りとか?
なぜか涙も出てこない。
僧侶の読経の声が響くのを聞きながら、彼との思い出を振り返る。
私と彼が出会ったのは、中学生の時だ。
当時、私も彼もオタクで、クラスのスクールカースト上位の子たちとは距離を置いて過ごしていた。
彼ら彼女らがするような好いた惚れたの話はとても恥ずかしかった。身の回りの地味な友人たちは、自分自身に彼氏彼女ができるとは思っていなかった。自分たちには関係ない。
でも、文化部で人数が少ない美術部は男女混合だったので、部活の時間だけは異性と密かに会話する時間をもっていた。美術部の中でだけは、カースト上位のお調子者キャラたちに茶化されることなく、自然かつ対等に会話をすることができたのだ。
彼とその双子の弟はロボットアニメが好きで、緻密なメカを描くことができた。
当時私も同じロボットアニメにはまっていた。
最初のコメントを投稿しよう!