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 友達、友達か。これは期待していいんだろうか。氷室は迷い、考える。彼女のことが好きだ。つき合いたい。つき合うということがどういうことか、よくわからないけど、駅での会話は楽しかった。田中澪とは不思議に会話が続く、盛り上がる。ぼくの下手な話でも笑ってくれる。こんな時間がもっとあれば。  友達になるなんて嘘だ。ぼくの欲望は、もっと強くて薄汚い。こんな自分が田中澪から愛されるはずがない。そして、彼女がインターハイの時のぼくの卑怯さを知ったら。  ぼくのせいで、わが校は敗れた。山行の途中、下痢と腹痛で苦しかったのは事実だ。でも……ギブアップしたのは自分からだった。あの時もう少し頑張れた。ガマンできた。自分で自分に線を引いて、諦めたんだ。  自分を守るために、先輩はじめ部全員が、学校の他の人も期待していた、わが校の上位入賞を犠牲にしたんだ。山岳部を辞めたのは、そんな弱くてズルい自分に耐えられなかったからだ。  部活を辞め、クラスの誰とも話さず、学校帰りに本に耽溺していれば、自分の弱さ醜さを忘れていられたのに。  田中澪のことを思うと、もっと近づきたいと思うと、また「自分」に還ってしまう。こんな自分、誰にも愛されるはずない……。  そう考える氷室にとって、自己嫌悪と絶望のなかにいて未来の見えない彼にとって、彼女の存在だけが光だった。彼女と話している時間だけが、呼吸ができるような気がする。  このままじゃいけない。氷室は決意した。告白しよう。インターハイでのズルい自分を彼女に聞いてもらいたい。そして君が好きだと言いたい。それで軽蔑されても嫌われても仕方がない。でも、もし、彼女が受け入れてくれるなら…自分も変れるかもしれない。文化祭の終わりのキャンプファイアーで告白しよう。
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