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プロローグ
最悪だ。
美夜は携帯電話を握りしめたまま、呆然と立ち尽くす。
今の今まで聞いていた母親の疲れた声が、まだ耳に残っている。疲れた中にもどこか勝ち誇ったような空気が漂う声。
「お母さんとお父さん、離婚、したから。もう、面倒見きれないわ。」
美夜の父親が酒に酔って通りすがりの人と喧嘩をした挙句、相手の男に大けがをさせてしまったのは三日前のことだった。
駅のホームで言い合いになり、つかみ合いにもなり、その結果、父は彼を階段から突き落としたらしい。
突き落とされた彼は、まだ意識が戻らない。意識が戻ったとしても、車いすの生活を余儀なくされる可能性が高いという。
美夜の父親が酒に溺れるようになったのは、一〇年くらい前からだ。
父の会社が吸収合併されたことにより、社内の父の立場は大きく変わったらしい。
そこに何か不運も重なったようで、父親は出世街道から外れ、気付いたら別人のようになっていた。
父親と母親の仲は、美夜が幼い頃からあまり良いとは言えなかった。
だからなおさら、父親が酒に溺れるようになってからは最悪の夫婦関係で、家の中に流れる空気はいつも重苦しかった。
不仲だったのは父親と母親だけではない。美夜と母親もまた、馬が合わなかった。
幼い頃はそうでもなかったのだが、美夜が中学生になった頃から母と衝突することが多くなった。
何事も自分の思い通りにならないと気が済まない性分の母は、成長とともに芽生える美夜の自我を受け入れられなかったのだろう。
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