容疑者B・被害者の友人の告白

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容疑者B・被害者の友人の告白

 ああ、そうさ、あいつに毒を盛ったのは俺だよ。  あいつの友人だったんだろうって? まあ表向きはそうなってるよな。だが、あいつにちゃんとした友人なんているのかね。ほとんどがあいつの金にたかってるだけなんじゃないのか? それにあいつの親父は有力者だから、何か利益を得ようと媚びへつらってる連中もいるしな。  俺があいつに近づいたきっかけは、三年前のことだ。あいつはあの通り、見た目だけはいいから、だまされてコロッと行く女が昔から多かったんだ。  俺の妹もその一人だった。俺より一つ歳下の妹は、あいつに一目惚れして告白し、あっさりと付き合うことになった。今なら考えられないが、その時の俺は奥手な妹に恋人が出来たことを喜んで、その恋を応援すらしていたんだ。  しかし、妹が幸せだったのは最初の頃だけだった。あいつと付き合うようになってからしばらくすると、妹は目に見えて心を病んで行ったんだ。元々不安定なところがあったのは確かだが、それにしてもここまで病むなんて、とその頃から不思議に思っていた。  そのうち妹は自殺未遂を起こして入院した。あいつと一緒にいると不安になる、としきりに言っていた。あいつはと言うと、見舞いには一回来たきりだ。冷たい奴なんだよ。妹はそのままあいつと別れ、母の実家で療養することになった。  だから俺は、妹の復讐をしようとあいつに近づいたんだ。あいつは来る者は拒まないから、友人には案外簡単になることが出来た。  近くで見ていると、あいつは本当にどうしようもない奴だということがよくわかった。さっきも言ったように来る者は拒まない奴だから、女に言い寄られると片っ端から付き合っていた。二股かけるなんてこともザラだし、一回やってそのままなんてことも多かった。  本気で奴を好きになって交際を申し込む女も何人かいたが、誰も長続きせずそのうち去って行った。妹みたいに心を病む女もいた。  なのにあいつは、別れた女を少しも気にすることはなかった。まるで付き合ってた女なんかいなかったみたいに、涼しい顔をしていた。女達から贈られたプレゼントだって、いらないと思えば容赦なく捨てた。妹が心を込めて編んだ手編みのセーターも、その日のうちにゴミ箱行きだったらしい。  あいつの親はあいつにあまり愛情をかけずに育てていたとは聞いていたが、それでも人の心がなさすぎだろう。最近はあいつと顔を合わせる度に、怒りを抑えるのに苦労していたんだ。  ああ、毒か? あいつが持ってたんだ。知ってるだろうが、あいつは化学実験が趣味だった。きっちり結果が出るのがいいんだって言ってたな。どこまでも無機質な奴だよ。  使う薬品の中には毒物もあった。前にあいつに訊いてみたことがあるんだ。間違ってなめたりすることはないのか、とな。 「ないよ。あっても毒物は大抵苦いから、すぐわかる」  あいつはそう答えた。 「でも、チョコレートとかに入ってたら、うっかり食べてしまうかもな」  それを聞いて、俺は決心した。こいつがバレンタインデーに開くチョコレートパーティー。そこで毒入りのチョコを渡したら、きっとこいつは疑いもなく食うだろう。  薬品の保管が案外甘いのは知っていたから、盗み出すのも難しくはなかった。盗んだ毒を注射器でウイスキーボンボンに注入したんだ。バレないように、毒を入れたのは一個だけにしておいた。まんまと食べてくれた時は、心の中でガッツポーズをしたよ。  え、俺以外にもあいつに毒を盛った奴がいた? そりゃそうだろう、誰に恨みを買っててもおかしくない奴だからな。  ま、あいつがくたばってくれたから、俺としては万々歳だ。
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