陽光

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  「(ヤン) 家乐(ジャラ)です。  誠心誠意皆さんに遅れを取らないよう頑張りますので、宜しくお願いしまーす」  翡翠の死刑執行まで残り七日。その頃、新人が派遣された。  本部出身の学歴安定のエリート、その経歴書の一覧を目にした時は感心したものだったが、結論から言うとコネ入社だった。この辺り一帯の刑務所を管轄する(チャン)(ウェイ)看守長の甥っ子だそうで、久々に会った拍子に就職の話で盛り上がり冗談だろうと思っていたそうだが本当に入所したらしい。学歴、身分は申し分ないがこれが若さと勢いばかりの捻くれたやんちゃだった。無邪気に振る舞っていた頃、周囲は「保って三日、俺は二日、一日」と賭けをしていた。私は乗らなかった。当日で泣き寝入りすると思ったからだ。  彼の横暴は容易に透けて見えた。バックに看守長の存在があるが故に上官も彼の社会経験皆無の口振りや振る舞いに目を閉じ、野放しにしていた。同じ所内の人間も一日で杨の水汲みに徹底し、靴を磨き、肩を揉んだ。  唯一その中で女だった私が、何故か教育係に任命された。夏莫尼(シャモニ)看守部長に楯突いた時「きみだけが媚びないからだ」と主張され、腑に落ちなかった。もっと腑に落ちなかったのは、私の仕事中背後から股間を押し付けてきた高卒の猿同然の杨 家乐の手を捻り上げ牽制したことで、何故かそいつが私に好意を抱いたことだ。  付き従えているわけではない。即刻首は切るべきだ。 「(スン)刑務官、今日の予定は」 「埋まっている」 「明日の予定は、」 「埋まっている」 「じゃあ明後日! てかいつなら空いてるんすかあ!」  書庫でこれまでの囚人記録のファイルを整理していると「二人っきりなんてとてつもなくエロいですね」とか(のたま)っていた。この時点で二日目だ。よく保ってはいる。ただ早く辞めてほしい。 「てか、こんな刑務所でこんなバチくそ綺麗な紅一点のさばらせておくなんてここの男どもの目は節穴ですね? 俺見る目あるでしょ。ねっ。ねっ」 「A-5423とE-2583のファイルを。後の資料はここに詰めろ」 「孙刑務か〜ん。俺あなたと仲良くなりたいんです! 仕事終わりに家に来てください、貴女の好きそうなワインがありますよ。てか、孙刑務官って長くてすげーやだ。下の名前なんていいます? あ、夏莫尼看守部長が呼んでたな確か。えーっと」  減らず口を叩くのが癪に障って真っ向から股間を手で鷲掴んだ。そのまま愛くるしい小動物のような顔がみるみるうちに血の気を無くしていくのを横目に、更に捻り上げて横髪を撫でてやる。 「次業務中同じ話をしてみろ。二度と使えないように捻り潰す」
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