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お帰り
◆
その光景を目の当たりにして、私は。
不謹慎だとか、冒涜だとか。
そういう言葉が頭を過りながらも。
何故か不意に目頭が熱くなった。
少し湿った古木の匂いと長方形の硝子ケースの中に、それ等は綺麗に鎮座している。
小さな鎖が付いた、八桁の数字が刻まれた銀色のタグ。
「タグを見るのは初めてかい? お嬢さん?」
店の奥から、店主とだと思う。
若い男性が話し掛けてきた。
奥の方には壊れた鎧や剣、布切れ等が納められた棚が置かれていて。
男性は丁度、梯子を使ってその棚の上段を整理していた。
話し掛けられたが。
店の雰囲気に飲まれ、胸の奥が締め付けられたままの私は、頷くだけで精一杯だった。
その内に涙も溢れて、嗚咽を抑えるのに私は必死になる。
男性は棚から降りて来て、背中を擦ってくれた。
タグが無数に並んだ硝子ケースの前から手を引かれて歩き、壁際に置かれた椅子に座るように促される。
「よくある事なんだよ。これを見て動けなくなるのは」
男性はそう言って、震える私の肩に手を置いて微笑んだ。
少しだけ気持ちが落ち着いた気がする。
「無理せず、日を改めて来るのも良いだろう」
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