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翌朝、朝食の席で、少し腫れぼったい顔をしたラウラと、逆に清々しいまでのルドルフの男前な顔を見て、エレノーラはにやにやとしていた。
「おはよう。よく眠れた?」
ラウラは一応息子の婚約者のはずなのだが、エレノーラにとってどうでもいいことのようだ。さすが流浪の民である。
「クリフだったら朝までおとなしくしてました」
おもわずふてくされたように言ってしまったのは、今朝のクリフとのやりとりを思い出したからだった。
傷口を確認して必要な手当を済ませた後、はだけた上着を整えていたときに、
「患者相手なら男の裸も平気で触れるみたいなのになー……」
と言われて、ラウラは固まってしまったのである。
「く、クリフ、もしかしてあなた昨日の夜起きてたわね」
なんで止めにこないの!と言いかけたが、さすがにこの状態の彼にそれを強要するのは酷である。
真っ赤になって肩をふるわせているラウラに、ついクリフの悪いクセがでた。
「あそこで我慢した殿下を心底尊敬しましたよ。話の流れで察した限り引き金ひいたのラウラ様っぽかったしな。や、この状態であれやこれや聞かされるのは正直おれも辛いんで助かりましたけど、こっちの部屋に来ないから昨日はふたりでひとつの布団で」
それ以上聞いていられなくなったラウラは、
「それだけ舌が回るならすぐ治りそうね!よかったわ!」
とたたきつけるように言って逃げるように立ち去ったのだった。
(ルドルフのばかばかばか……!)
クリフのいうとおり、昨夜ルドルフはしっかりラウラを腕の中に閉じ込めたまま放してくれなかったのである。
男性の腕枕で寝るなんてもちろんはじめてのラウラは、できるだけ身体を離していたのだが、その寝心地の悪さといったらなかった。
重たくないのかしらと気になる上に、ルドルフの腕は硬くて枕に向いていない。
世の中の男女はどうしてこんな状態で眠れるのか疑問を抱いた。
もぞもぞとするラウラをみかねたルドルフに引き寄せられ、ようやく頭が安定する位置を知る。
それは腕の付け根で、つまりはかなり顔が近くなる位置であった。
すると今度は顔に当たる彼の呼吸やら、額のあたりに触れるじょりじょりするひげやらが気になりだして、とうとう明け方まで眠れなかったのである。
ようやく気絶するように眠れたと思ったら、窓から差し込む朝日で目を覚まし、視界には朝だというのに非常にキラキラした男の顔があった。しかもすでに起きている。
寝顔を見られていたと知った瞬間に血の気がひいて、起き上がろうとしたところを引き戻され……そこから先はこの場で思い出したら、きっともう取り繕えない。
いやすでにラウラには自分がゆだっている自覚がある。
前日あれだけのことがあったというのに、これでは完全に寝不足である。
一方のルドルフにはなぜか余裕のようなものが感じられて、これまた腹立たしいラウラであった。
「よかったね、ラウラ」
「な、ナニがですか」
「おや?クリフのことだよ。熱もあがらなかったみたいだし」
「…………そうですね」
ラウラが朝食の毒味をさっさと済ませて、ルドルフの前につっと差し出すと、エレノーラは少しばかり驚いたようだったが、なにも言わずにいてくれた。
「ラウラ」
今度はルドルフに名前を呼ばれて、びっくりする。
「な、なに」
「わたしは今日、封鎖されているダウニールの屋敷に行く。おまえもついてきてくれないか。錬金術に関する資料がないか確認して欲しい」
ラウラはようやく平常心を取り戻して、頷いた。
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