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親父──そう呼んでいたか記憶にないが、俺の親父は俺が5歳の時に失踪した。
突然、姿を消した親父の分も俺を可愛がって育ててくれた、そんな母さんのことが俺は、大好きだった。
これは自慢だが母さんはかなりの美人だ。
母さんの口から昔話を聞くことは皆無だが、昔はそれなりに男をブヒブヒ唸らせていたはず。
それに母さんは最強に優しい。それはそれは聖母のような人で俺は一度も怒られたことがない。
マザコンと呼ぶがいい。
事実として、母さんは俺の全てだ。
唯一無二のたった一人の母でただ一人の家族だった。
いつだったか。
母さんに向かって宣言したことがある。
「母さん、俺! 魔術師になってラクさせてやっから──」と。
突拍子も前触れもない。
これこそ若気の至り。
完全なる黒歴史だ。
いや、黒歴史ならまだ良かったんだろう。
恥ずかしい。
だって、あろうことか俺は本気で魔術師になりたがった。
非現実的で非科学的なくせして、高所得を叶えられるかもしれない夢みたいな職業が、この世界に存在していることを知ってしまった。
幼少の小さな俺の野望はもう止まらなかった。
母さんは笑顔で「──楽しみね」と言った。
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