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氷の心
ウィルギルは洞窟の最奥の壁に彼女を運び、そっと右手をかざした。辺りには冷気が立ち込め、彼女の氷は洞窟の壁と一体化するように凍り付いてゆく。この氷は誰にも砕くことはできない。ウィルギルを追ってきた人間が見つけたとしても、彼女を持ち去ることはできないだろう。
この場にとどまっても良かった。彼女の炎を眺めて悠久の時を過ごすのも悪くはない。ただ、彼女が息絶えていないのであれば、やらねばならないことがある。
ウィルギルは初めて、自らの氷を溶かす方法を探そうとしていた。これまでは考えてもみなかったことだ。答えが見つかるかどうかもわからない。見つけたとしても、手遅れになっているかもしれない。それでも、彼女の命がけの想いに答えるにはこうする他なかった。
「……待っていて、レイゼア」
動かない氷に向けてそう囁くと、ウィルギルは外の世界へ歩き出した。
了
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