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虹の炎
氷に閉じ込められた狩人の元を去って一週間後、森をさまようウィルギルのもとに、不思議な客が現れた。
「行く先々で人を襲っては凍らせている化け物って、あなた?」
波打つような金色の髪、宝玉のように輝く銀色の目。黒の法衣に身を包んでいるが、太陽のように強い輝きを放っているようにさえ見える。不思議な女性だ。若く美しいが、同時に凄まじいほどの魔力を感じた。
「そうかもしれないね。君も氷が欲しいの?」
「氷? いいえ。私は雇われたの。村を襲ったあなたを退治してほしいって」
村、と聞いてウィルギルは首を傾げた。村を自分から襲った覚えはなかった。もうしばらく、人里には近づいてすらいない。
「何の話?」
「とぼけないで。村人が何人も氷漬けにされて困っているって、討伐の依頼があったのよ」
ウィルギルは一週間前の記憶を思い返してみた。最近出会った人間は彼らだけだ。
「その中に、狩人のような人はいた? 赤いバンダナをつけていた人たち。一人は、オリバーと呼ばれていた」
「依頼主はオリバーという名の男よ。それが何?」
「そして、君に僕を退治するよう依頼してきた?」
ウィルギルの質問の意図がわからないのだろう。彼女は整った眉をひそめた。
「なんか調子狂うわね。あなた、本当に人間を襲っているの?」
「僕から襲ったことは一度もない」
「なんですって?」
女性が一歩近づいて来たので、ウィルギルは逃げるように離れた。
「やめたほうがいいよ」
「何故?」
「僕に触れた者は皆氷になってしまう。僕を退治できる人間なんているわけがない」
「あんまり私をなめないでくれる? 見た目通りの女ではなくってよ」
その言葉に嘘はないだろうが、それでも帰らぬ人となった者はごまんといる。彼女がこの力に対抗できるほどの実力者なのかどうか、ウィルギルには判断できない。
「君は騙されているんじゃないかな。その人たちは僕を退治しようとしていなかった」
「騙されてる? どういう意味? こっちがわかるように説明してよ」
「彼らは僕の氷を商売に使いたがっていた。そして君はとても美しい人だから……君が僕に負けて、氷の像になったところを持ち去ろうとでもしているのではないかな」
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