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荷物の載せた馬車を引く、巨大な毛むくじゃらの生き物が横を通り過ぎた。
もうすぐ派遣ギルドの受付カウンターだ。
ふと、巨大な荷馬車が通り過ぎた反対側に見えた人物に目を奪われた。
青みがかった黒いショートカット……一瞬、男と見間違えそうになるほどの高身長で眼鏡をかけた知的な女性。
誰にも声をかけるわけでもなく壁にもたれかかり、まるで誰かを待っているようにその人は静かに佇んでいた。
気が付けばハセさんの手を放し、走り出していた。
彼女に声をかけたい、その一心でハセさんの制止の声も聞かずに……
なぜか分からないけど、彼女はボクを待っていたような気がしてならなかった。
『あ、あの……』
ボクが声をかけると彼女は人形のように生気のない顔をこちらに向ける。
猫の姿のボクを認識したからなのか、ふと長いまつげの下に伏せられていた彼女の深い海の底のように暗い紺色の瞳に少し明るい光が差し込んだように輝いた。
「……蘇芳?」
……え?
いま、この人はボクの本名を?
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