豆腐小僧がゆく

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「とうふー、もっとー」 「豆腐の料理、たくさんあるのよ。うちの父さん、すっかり豆腐に傾倒しちゃってるの。数を増やしてもいいかしら」 「そりゃあ勿論。ありがてえ話だ」 「とーふ、おいしーくなるの」 「ふうちゃんが言うと、本当においしく聞こえるわ」  つゆが笑い、善吉も笑う。 「きっとふうちゃんは、豆腐小僧ね」 「なんでえ、それは」 「豆腐が好きな妖怪らしいわ。幽霊ではなくて、きっとそちらよ」 「とうふー、とうふー」 「まあ、なんだっていいさ」  さまざまな縁を運んでくれたのだから、むしろ神さまのような気もするが、この(なり)だ。  小僧というほうが、よほど相応しかろう。 「そろそろ、戻る。明日もまた来るよ」 「ええ、また明日」  またねと手を振り別れるよりも、もっと一緒にいてえなあ。  そんなことをぼんやり考えながら、善吉は通りを歩く。 「とーふ、とーふぅや」 「豆腐や~、豆腐や~」  弾んだ心はそのまま声に乗り、高く空へ上がる。 「とーふ、とーふぅや」 「豆腐や~、豆腐や~」  豆腐売りと豆腐小僧は、今日も町をゆく。
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