豆腐小僧がゆく

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 父の倍の時間をかけて歩いても、結局豆腐は売れ残った。  持って帰って、家で喰うしかねえよなあ。  両親にどう申し開きをしようかと思案していると、道の端でうずくまっている童の姿が目に入った。  もうすぐ日も暮れようかという刻だ。  善吉(ぜんきち)は、童に声をかける。 「どうしたい、小僧」 「とうふ」  すると童は顔をあげ、善吉に言う。 「ああ、豆腐だ。なんだいおまえ、豆腐を買ってこいって言われたのか?」  手に握る器には、なにも入っていない。  買い逃したのであれば、ちょうどいい。余りものではあるが、ここにまさに豆腐がある。 「ほれ、持って帰れ」 「とうふ!」 「うちの豆腐はうめえぞ」  豆腐と善吉の顔をかわるがわる見て、にかりと童が笑った。  家路を辿る善吉のあとを、なぜか童がついてくる。  豆腐の入った器を抱えもち、危なげなくこちらの後を追ってくる。  はて、同じ方角なのだろうかと頭を捻るうちに家へ着く。  童もぴたりと足を止めた。 「おいおい、おめえの家はどこだ?」  迷い子か? と頭を抱えていると、奥から母が姿を現した。 「帰ったのかい」 「ああ。だがしかしよう」 「なんだい、ぼーっとひとりで突っ立って。さっさと入りな」 「ひとり?」  善吉の足もとには、童。  腰のあたりにある頭を撫でると、たしかにその感触はある。 「母ちゃんよう」 「なんだい」 「この小僧……」 「おまえ、二十歳になろうってのに、まだ子どものつもりなのかい?」 「いや、そうでなくてよ」  善吉は頭をひねる。  どうやら、この童は己にしか見えぬらしい。
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