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父がひどく気に入ったのよ。
料理屋『木の屋』の娘・つゆの口利きにより、善吉が売る豆腐は店の料理として並ぶようになった。長屋の住人を相手にしていたころよりも、必要な数が増えることとなる。
特定の店に贔屓にされるのは、職人としても誉れである。
両親は喜び、善吉もようやく孝行ができたような気がして、嬉しさがこみあげる。これもすべて、ふう太のおかげだ。
「ふうちゃん、どうぞ」
「おいしー」
豆腐を納品する、ほんのひととき。店の裏で、つゆと話をする。
ふう太の姿が常人には見えぬらしいと告げた折には、まさかと笑っていたつゆだが、店主である父や母は善吉ばかりを見据え、その足にまとわりつく童には目を向けぬさまを見ては信ずるしかない。
不思議なものだと思うたが、見えるものは見えるのだ。
目を合わせ、話をする。手を握ることもできるし、抱きしめればきちんと温かい。
ならば、それで良いのではないかと思うことにしたらしい。
「善吉さんは、名のとおり、よい父になるのでしょうね」
「俺の子にしては、ふう太は大きすぎやしないか」
「そうね。ではお兄さんかしら。どちらにせよ、面倒見の良いおひとだわ」
「――どうだろうな。はじめは俺にしか見えぬから、どう扱ってよいか途方に暮れた」
過ごすうちに当たり前となり、すっかり日常だ。ともに声をあげ、豆腐を売る。
ふう太がいなければ、今もきっと豆腐は売れ残り、重い天秤を肩に家路を辿っていただろう。
それになにより、こうして商売が広がった。
あの時、ふう太がつゆと出会ったおかげで、今がある。
料理屋が休みでないかぎりは豆腐は入用で、こうして日々、つゆに会いに来られることが、善吉は嬉しい。
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