アガーシャを探せ!

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「ステフ、いいか、視覚だけに頼らず自分の直感を信じるんだ。何か少しでも光る物が見えたら教えなさい」  オーリは棚の魔法道具をひとつひとつ点検しながら言った。  直感と言われてもよくわからない。これがリスかネズミが逃げたというのなら、餌で誘い出すこともできるのにと思いながら、ステファンは床の上に身をかがめ、懸命に目を凝らして青い光を捜した。  時間と共に部屋の温度は上がり、絵の具と油の臭いが鼻につく。エレインでなくても、この状況は充分に不愉快だ。気分が悪くなってきた。 「出てきなさいアガーシャ! インク壷こわすよ!」  ついにエレインが怒り始めた。 「待った、エレイン。そうまで言うなら最後の手段を使うよ」  オーリは杖を自分の額に向け、意識を集中するように目を閉じた。  身体の周囲に微細な青白い火花が舞っている。真冬に衣服の静電気が起きる時に見える、あの火花と同じだ。部屋が明るければ気が付かなかっただろう。 「火花なんて出さないでよ、揮発油も置いてあるんでしょ?」  エレインが慌てて飛び退いた。 「だから魔法は使いたくなかったんだ。引火しても責任は取れないよ」  目を閉じたままのオーリは口元だけ笑い、冗談めかして言ったが、急に顔を上げて告げた。 「ステフ、天井だ!」  目を凝らし、天井をくまなく見回すと、微かだが壁際から天井に向けた照明の上に青い光の帯が踊っているのにステファンは気づいた。 「見えた。電球に乗っかってます、先生」 「どこだ? エレイン、見えるか?」 「見えない。ステフ、どの電球?」  ステファンは戸惑った。自分に見えるものは、オーリにも見えて当然だと思っていたのに、なぜ見えないんだろう。 「あの壁際のやつ、です」 「よーし、あたしに任せて」  ジャンプするため助走をつけようとするエレインを、慌ててオーリが押しとどめた。 「待て、君じゃ壊してしまう。ステフ、まだ見えてるか? じゃ捕まえてごらん」 「ええ? ぼくが? どうやって?」  エレインはオーリを睨んだが、ステファンにはニッと笑いながら近づいてきた。 「ステフ、高いところが怖い、とか言わないわよね?」  え? と聞き返す暇も身構える暇も無く、ステファンはいきなり抱えられ、天井へと放り上げられた。  視界が反転する。  天井の梁に背中がぶつかる。  落ちながら目の端で青い光を捉えたステファンは、夢中で左手を伸ばした。  指先が照明に触れる瞬間、フィラメントが切れる直前のように電球が眩く発光した。ステファンは目がくらんだまま、何か強い力に押されてくるりと回転しながら背中から落ちた。 「大丈夫か!」  オーリの声が聞こえ、ステファンは目を瞬いた。電球はすでに消え、アガーシャの青い光が力なく落ちてくるのが見える。背中の痛みをこらえて手を伸ばし、なんとかそいつを受け止めた。 「は……はい先生、捕まえました」   ステファンは顔をしかめながら掌を差し出した。ところがオーリはすぐには受け取ろうとせず、信じがたいといった表情でしばらく見つめている。 「先生?」 「ああ、ありがとう――ステフ、よくやった。思った以上だな」  オーリは無理をするように笑い、机の上から青いガラス製のインク壷を持ってきた。 「アガーシャ、もう懲りたろ?」  声に促されて、青い光が生き物のようにステファンの指の隙間から滑り出し、大人しくインク壷の中に納まった。 「まーったく、魔法使いって!」  エレインが勢い良くドアを開け、窓も開けにかかった。  太陽の光と共に新鮮な空気が流れ込み、部屋の空気を押し流す。
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