2020年2月15日(土)

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2020年2月15日(土)

 曇天の昼下がり、私は東京都内の古着屋で計13点の洋服を買い取ってもらった。手放した瞬間、身も心も軽くなったような気がした。  最も高く売れたのは、1ヶ月ほど前にフリマアプリで購入した赤いチェスターフィールドコートだった。たった一度しか着なかった。  電車に揺られて帰路につく中、私は数少ない友達に「明日、別の賃貸マンションに引っ越します」とLINEで伝えた。  大阪でひとり暮らしをしている真衣香から「えっ!ひょっとして結婚?美雪に先を越された...」とすぐにメッセージが届いた。真衣香はいつも返信が早い。私は「ひとり暮らしだよ。彼氏募集中だもん」と否定した。  真衣香とは、私が大阪でひとり暮らしを始めた18歳の頃に出会った。大学入学後のオリエンテーションで打ち解けた。  互いにファッションが趣味で好みも似ていた私たちは、洋服や小物をよく貸し借りする仲だった。卒業後、私は東京、真衣香は大阪で就職した。  社会人になり、顔を合わせる回数は減ってしまったが、卒業式の日に交わした約束通り、毎年の夏季休暇には必ず会っている。私は真衣香に「今年は私が大阪まで会いに行く番だね」とメッセージを送った。真衣香から「楽しみにしているよ。美雪に会いたくてたまらない」という返事がきたのは、最寄駅に着く直前だった。「私も同じ気持ちだよ」と返して私は電車を降りた。  駅から自宅までの帰り道、冷たい風に頬を撫でられながら、彼女は私の部屋を出て行ってくれたかしら、と私は考えていた。  私が引っ越しを決意した理由は、ある女性が私の部屋に住み着いてしまったからである。私は頗る迷惑している。  彼女は私の引っ越し先を知らないはずだが、今日中に出て行ってくれなければ明日の退去後にそのままついてくる恐れがある。私は、期待と不安を胸に、まるで空き巣狙いのように、そうっとゆっくり玄関の扉を開けた。
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