2020年12月12日(土)

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「...実はね、1週間くらい前から、この部屋に幽霊が出るの」  私は、胸の中に波が立ち、そしてうねるように、狼狽した。 「寝苦しくて夜中に目を覚ましたら髪の長い女が私を覗き込んでいたり、昼間でも誰かに見られている気配がして振り向くと部屋の隅に同じ女が立っていたり...。私の全く知らない女だよ。すごく怖くて、もうどうしたらいいのかわからなくて...。事故物件ではないはずなんだけれど、やっぱり引っ越したほうがいいのかな...。美雪、どう思う?」  私は、少し間をおいて、「...ねえ、その女の霊はどれくらい髪の毛が長いの?黒髪?」と真衣香にたずねた。 「うん、黒髪。長さは腰まである」 「...服装は?」 「長袖の黒い上着に、黒のロングスカートだよ。いつもそう」  私は、背中に大きな氷の塊を押し当てられたようにぞくぞくして、震え上がった。 「...似ている」 「えっ?」 「真衣香、私が10ヶ月前に引っ越したことを憶えている?」 「うん」 「私が引っ越しを決意した理由はね、知らない女性が私の部屋に住み着いてしまったからなの。その女性も真衣香が見た幽霊と同じで、黒髪ロングで黒の上着を着て黒のロングスカートをはいていた」 「えっ、どういうこと?その女って生きている人?」 「私につきまとっていた幽霊だよ」  真衣香は、まるで金魚のように口をぱくぱくさせた。 「...同じ幽霊?」 「同じとは限らないけれど、似ている。私が住んでいた部屋も事故物件ではなかったのに、ある日から急に誰かの気配を感じたりするようになったしね。それに私も、体が重くなって、判断力が低下したのか、会社で一度だけ大きなミスをしちゃったの。普段だったら絶対にしないような、とんでもないミスだった」 「そうなんだ...」  私たちは黙ってしまった。私は、不安と困惑の混ざり合った沈黙が膜となって私の顔に覆い被さったような、息苦しさを感じた。
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