Eliot

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 この世界のどこかに、美しい旅人がいる。  彼の名前はエリオット。しかしそれを知る者はいない。  夜色の髪に、月色の瞳。彼を目にした人間は誰もが振り返り、その光景に目を見張り、感嘆のため息をついてしまう程の美貌。  エリオットと関わった者は皆、彼のことを「冷たいあの人」と呼んだ。  何故なら、彼の手のひらはビスク・ドールのようにひやりと冷たく、誰の誘いもすげなくかわし、そして、どんなに感情を揺さぶられる話を聞いても、涙一つ零さないからだ。  誰も知らない。  彼の胸の中がこの世の何よりも温かく満たされているということを。  彼の胸の前で揺れる懐中時計が、それを証明し続けているということを。
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