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「最期にあなたが触れたものが、こんなに冷たい手で良かったのでしょうか」
エリオットはマリオンの手を強く握った。熱を失ったその手が握り返してくれることはもうない。
「何故、先生は僕に時間をくれなかったのですか」
与えられた時間の中で愛する人と共に老い、終わることのできる身体だったなら。
エリオットの脳裏に自分を作った老爺の顔が浮かぶ。彼が旅立った時は、絶望は抱かなかった。隣にはマリオンがいたからだ。
けれどもうエリオットは一人だ。自ら終わることもできない身体で、永劫、ただ存在するだけの虚しい塊となった。
温かな夕陽の差す部屋に、静かな慟哭が響く。
どれだけの朝と夜を繰り返しただろうか。気が付けばエリオットは、白く冷たい石の前に跪いていた。
エリオットは覚束ない動きで石に刻まれた愛しい名に触れる。
「――せめて、涙があったなら」
こんなにも冷たいあの人に、こうして触れていても、涙一つ流せないだなんて。
不意に、ポケットの中の懐中時計が、夕方を告げるオルゴールを鳴らす。
懐中時計の蓋を開くと、折りたたまれた羊皮紙が膝の上にひらりと落ちた。
エリオットはそれに刻まれた文字を、震える手でなぞってゆく。
指先に馴染んだ文字で綴られた言葉は、どんな慰めよりもエリオットの心を温かく包み込んだ。
『エリィ、私の最初のお願いを覚えてる?』
白い花が咲くように笑う、最愛の人の幼き日の姿がエリオットの脳裏に浮かぶ。
『私の最後のお願いを覚えてる?』
白い花が散るように儚く、美しく微笑んだ最期の姿が同じように脳裏に浮かぶ。
『とうとう君を手放せなかった私を許して』
『今日も、明日も、永遠に愛してる。私のエリオット』
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