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 小さい頃から、もてはやされてきた。顔が良いとか、勉強ができるとか、スポーツができるとか、理由は様々。  初めて恋愛感情の「好き」が向けられた日。そのとき俺は何を感じていたのか今となっては思い出せない。月日を経るごとに、他者から向けられる好意は両腕から零れ落ちるほどになっていた。  そのどれか一つを選ぶことはできなくて、全ての思いを相手に返却していた。返却してしまうのは何故なのだろう。誰からも愛されているのに自分が酷く空っぽに感じるようになったのは何故なのだろう。  その穴が広がった一つの出来事として、母さんが病死して父さんが再婚したことにあると思う。母さんとは似ても似つかない人が、家に転がり込んで何食わぬ顔で息をする。違和感はあったけれども、再婚相手に対して何の感情もわかなかった。継母なる人が愛人だったと知ったのは、随分後の話。  あんなにも母さんと愛し合っていた父さんが、別の誰かを好きになってしまう。愛に永遠なんてなくて、脆く儚いものなんだと知った。それと同時に、自分がなぜ空っぽなのかが分かった。  俺は自分から誰かを愛することができない。誰かを「好き」になることができないと。戦慄、否定、諦観、一回りして自分を理解した。だけど、そんな単純な問題ではなかった。  告白されて振る。誰かの恋を終わらせる。その度に相手は傷ついた。俺が傷つけた。傷つく相手を見て、自分自身も傷ついた。誰も愛せないやつに傷つく資格なんてないのに。相手の方が自分よりも、よっぽど傷ついているのを知っているのに。  自分の方が不幸だと思うようになってしまった。
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