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 誰か一人を愛することができれば、相手も自分も傷つけずにすむだろうか。そんなことも考えたけれど、心が許してくれなかった。何度も何度も愚行を繰り返して、自分を守っても余計に傷つくだけだった。  愛することができないだけで、こんなにも悲しくて苦しくて辛くて、溺れて沈んでしまいそうになる。昼休みの喧騒も、友人の笑顔も、全てが俺を窒息させる。  こんなにも苦しくなるなら、いっそのこと俺は冷たい人になりたかった。愛を知るあの人たちみたいな冷たい人に。  父さんみたいに愛する人を失っても、別の誰かに愛を注げるような。山瀬みたいに誰か一人の人を愛することができるような。世の中の人間が普通にできるようなことを、自分にもできたらよかった。  愛を知る人は移ろいやすいくせに、永遠を信じている。愛することができなくて苦しむ気持ちを、理解することなど絶対にできない冷たい人。
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