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 何事もなく手伝いは無事に終わった。空はすっかり柔らかな橙色に染まっている。行きも帰りも普段は一人の通学路。今日は山瀬が隣にいる。お礼にコンビニで好きなもの奢ってあげると言われたので、最寄り駅にあるコンビニまで一緒に歩くことになったのだ。 「やー本当に助かったよ。祐はお人好しだねぇ。あんなに渋ってたのに結局引き受けてくれたんだもの」 「山瀬が俺じゃなきゃダメって言ってきたし…………俺が押しに弱いの知っててやったんだろ」 「あ、バレた?」  山瀬は下卑た笑みを浮かべる。下卑た笑みさえもチャーミングポイントに変えてしまうのだから恐ろしい女だ。学年一の美女と呼ばれる理由にも頷ける。彼女には確か他校生の彼氏がいたはずだ。一度だけツーショットの写真を見せてもらったことがあったが、なかなかの好青年だった。まあ、俺には劣るけど。 「そういえば、この前振った子ってうちのマネージャーでしょ?」 「ああ、たぶん…………そうだよ」  自然に声が小さくなる。今日はなんだか開けられたくない心のドアを、やたらとノックされる。相手に悪気はないし、話を逸らして不自然に思われるのも嫌なので適当に会話を繋げることにする。 「なんだかその子が不憫に思えてくるよ。誰とも付き合わないことで有名な祐に告白するなんて、すごい勇気だよねぇ……」  山瀬はせせら笑った。あまりいい気分はしないが、一年以上のつきあいだ。彼女の欠点くらい理解している。 「ふーん」  早くこの話題を終わらせたいから生返事をする。 「うわぁー薄い反応。やっぱりモテる男は一人振っただけじゃ動じないってこと? なんかムカつくわー」   山瀬はほっそりとした手を口に当てて呆れている。そんな姿を横目に俺はスタスタと歩みを進めた。早くコンビニに着かないだろうか。足音がひとつ止まる。振り返ると、何かもの言いたげな表情をしている山瀬と目が合った。 「何してんの。早く行こう」 「あの……さ……」  いつもの快活な彼女とは打って変わって、弱々しく頼りのない声量。山瀬の目があちこちに泳いでいる。頬が薔薇色なのは夕陽のせいだけではなさそうだった。山瀬から滲む桃色の気配を俺は感じ取った。
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