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季節の変わり目は、晴れたり曇ったり雨が続いたりと空模様が忙しい。その中でも雨天は嫌いだ。低気圧は俺の敵だから。奴のせいで頭痛が止まらなくなる。
いつもは頭痛薬を飲んでやり過ごしているか、今日はタイミング悪く薬を切らしてしまって朝から瀕死状態だった。二限目までは我慢したものの限界が近い。俺は耐えかねて保健室のドアを叩くことにした。
「はーい」と女性の柔らかな声がドアの向こう側から聞こえてくるのを確認して、ドアを開ける。保健室の隅のデスクに座る笛吹先生は驚いたように目を見開いて立ち上がった。汚れ一つない白衣の裾が揺れる。
「渡くん、なんだか久しぶりね」
「確かに。二年生になってからは体調がよかったから……」
「それは良かったわね。今日はどうしたの?」
慈愛に満ちた表情というのだろうか、笛吹先生の醸し出す雰囲気はどこか人を安心させるものがある。一年生の頃、頭痛でぶっ倒れたときも同じ顔をしていた。その時以来、保健室に来ては体調のことで相談に乗ってもらったり、授業をサボらせてもらったりしていた。
けれど、いつだったか笛吹先生と仲良くしていることを友人に冷やかされて、保健室に出入りすることをやめた。笛吹先生に対して恋愛感情は微塵もない。出入りをやめる理由も本当は何もなかった。ただなんとなくやめただけ。
先生はたぶん30代後半から40代くらいで、俺たちから見たら親世代のような立ち位置だ。派手に着飾らない代わりに、立ち振る舞いや紡ぐ言葉によって清廉な花を咲かす。それが笛吹先生の印象だ。
あと、これは本人に言ったことはないけれど、笛吹先生は死んだ母さんに雰囲気が少しだけ似ている。ほんの少しだけだけど。
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