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 俺は背もたれのない丸椅子に腰を下ろした。長テーブルには筆記具や保健室用の問診票などが整然と置かれている。重力に引っ張られるように上体をテーブルに伏せる。90度傾いた横向きの視界に笛吹先生がひょっこりと現れた。先生は覗き込んで首を傾げる。 「その様子だと頭痛かしら?」 「そう…………頭割れそうなくらい酷い……」 「じゃあ、一時間ゆっくりベッドで寝なさい。それでも良くならなかったら早退するのよ。無理はしちゃダメ」 「ベッド……遠い。動きたくなんだけど」  立ち上がって4、5歩歩けば届く距離にベッドがある。しかし瀕死状態の俺にとってはその動作さえも億劫だった。 「テーブルの上で寝る? 枕は?」  いつ持ってきたのか笛吹先生は、綿がたっぷり入った枕を小脇に抱えていた。ありがたく受け取り、頭の下に枕を置く。肌触りのいい布地とふんわりとした感触が伝わってくる。微かに太陽の匂いがした。 **  ガラス窓の向こう側では延々と雨が降り続いている。鈍色の空から銀色の針。見るだけで憂鬱になる。笛吹先生はずっとパソコンのキーボードをたたいている。俺がいることを忘れてしまっているように集中していた。  保健室は教室から離れているせいかとても静かだ。瞼を閉じて耳を澄ませると、繊細な音が聞こえてくる。雨音、雨どいを流れる水音、秒針の音、自分の心音。  無心になってぼんやりと過ごす時間は、心の機微がいつもより強く感じる。重りが浮いたり沈んだり水面が揺らいだり、インクが滲んで広がったり。とにかく今は心も身体も重く沈んでいた。山瀬を振ったこと。考えるだけで痛みが増した。
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