以心電信

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 俺はもう何もかもが面倒になり疲れ切っていた。 朝夕の通勤ラッシュ、やりがいの無い仕事、上司や部下に気を使う飲み会。 世間体を気にする親や親戚付き合い、お節介な近所のお見合い話。 自粛、自粛で遊びに出かけるのも白い目で見られ、友達とも疎遠になっていった。 たまの休みは趣味でオンラインゲームをする事くらい。 休日ゲームが一段落した時、パソコンの電源ボタンの左横の小さい穴が気になりだし、人差し指で、その穴をなぞったり爪を入れてみたりしていた。 そこに違和感を感じ穴を覗き込んで見たら、俺の頭がモニター画面に吸い込まれてしまったのだ。 「うわわわわーー」 (ここは一体?)  足元を黙認すると地面に渋谷区と書いてある。 いつもパソコンから見ている平面な地図の上だった。 南方面は『中犬ハチ公象』北方面は『代々木公園』と文字で書いてあるだけ。   「どういう事なんだ……」 「もしかして本当にパソコンの中に入り込んでしまったのか? それとも夢?」  代々木公園の方には、ちらほらと人らしき者がうろついていた。 「ここは現実世界では無いバーチャルシティなのか?」 「兎に角、家に帰ろう」 「あっ、平面じゃん、建物何も無いし、どうしよう」 「そうだ、スマホからいじれるか?」  ズボンのポケットからスマホを取り出し、マップで現在置からストリートビューに変えた途端、飛び出す絵本のように平面が立体になった。  すると目の前にはいきなりビルが立ち並び現れた。 「さて歩いて帰るには遠いから電車で帰るか…… ん? 電車でも2回乗り換えて20分はかかるか。めんどくせぇなあ」 「あっ、マップで縮めれば縮小されて早く帰れるんじゃね」  俺はスマホで立体から平面図に変えた。 「渋谷から目黒まで100センチメートル! うわっ、めっちゃ近っ! うへっ、便利」 「家の前に着いたら又ストリートビュー発動させてっと」 目の前に家が立ちあがった。  現実世界とは別段変わりはないが、家族も近所も誰もいない日々が続いた。 会社に行かなくても催促の電話も来ないし、食べ物もネットから注文すれば玄関の外に届いてある。 好きなゲームや映画、アニメをオンラインで見て楽しく過ごしていた。 ここは本当に楽園のようだ、煩わしい事は何一つ無い、素晴らしい世界だ!  外出する時はマップを平面にし楽に移動できるようにして出かけられる。 帰りも同じように平面地図で家の前に着いたらストリートビューにしようとスマホを取り出すと電源が切れていた。 何度も電源ボタンを長押ししてもスマホは立ち上がらない。 「えええ、充電切れか、さっきまではまだ55パーセントは残っていたはずなのに」  ふと周りを見渡すと、最初来た頃よりも人が増えてきている。   更にどんどんどんどん現実世界から潜りこんで来た人達で溢れ返り、インターネットの中でもウィルスに侵され体調が悪い。   掲示板上でしか悪口を書く事が出来なかった人々までも、面と向かって言い争い殴り合いの喧嘩、紛争が起こり死人まで出た。  折角バーチャルなネットの中に逃げ込めたと思ったのに…… 現実世界と何ら変わらない、否……現実よりも陰湿で悲惨な世界に迷い込んでしまった。
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