やめるはひるのつき

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 延命治療はしないでほしいと、まだしっかりしている頃から雪乃は何度も言っていた。菜乃花と弘美はその意思を尊重した。  食事を取れなくなった日から、少しずつ最期の時へと向かい始める。  弘美の弟夫婦とその子どもたち、妹夫婦らが見舞いに来た時、雪乃はずっと眠ったままだったと中田は言った。  顔を見るだけでいい。  祐介たち四人は個室のベッドを囲んだ。 「それにしても、祐介。あの『誰かに君を取られないか、心配で』って、何?」 「え……」  雪乃とのオンラインお見舞いを弘美も聞いていたようだ。 「いいじゃないの、弘美。お母さん、なんだか嬉しそうだったし」  弘美だけではない。菜乃花も聞いていた。  気まずく目を逸らすと、雪乃がうっすらと目を開けるのが見えた。 「雪ちゃん」 「祐介……。来てくれたの?」  雪乃は「祐介」と呼んだ。  菜乃花と弘美が顔を見合わせる。ほとんど吐息のような声で雪乃が囁いた。 「夢を見たの……」 「どんな夢?」 「裕一さんの、夢……」  ベッドの周りに視線を巡らせ、「菜乃花と弘美、佳織ちゃんも、ありがとね」と囁く。 「看護師さんにも、お礼を言ってね……。裕一さんと話せて、嬉しかった……」  かすかに笑みを浮かべ、また目を閉じる。  それきり、その日はもう雪乃は目を覚まさなかった。
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