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幸い、まだ誰も来ていないようだった。いつも外まで響いている満先輩の声もしない。
一応ドアをノックしてみる。数秒待ったが、何も返事はない。そっとドアに手をかける。鍵が掛かっているかもしれないと思ったが、その扉はあっさりと動いた。
私は中に入り、後ろ手でゆっくり扉を閉める。"彼"を起こさないように、そっと。
そこにいたのは、いつも見る生徒会の人ではなかった。朝霧高校の制服を着ているが、この学校では見たことがない顔だ。彼は扉の正面の窓際、つまり、コの字型になっている長机の縦線のところに、堂々と横たわっていた。
ゆっくりと近づいてみる。
細く白い手は胸の前で組まれ、目は固く閉じている。僅かに開いた窓から入ってくる風が、彼の細く綺麗な髪を揺らす。まるで御伽噺に出てくる眠り姫のようだ。
すぐ近くに行くと、彼の線の細さとそれによる繊細な美しさが際立って見え、思わずまじまじと見てしまう。だが、人間離れしたその美しさ故に、彼は永遠の眠りについてしまったかのように見えた。
微風が私の髪も揺らし、背中に流していた長いポニーテールが彼の顔の前に垂れる。自分が彼に顔を近づけていたことに、初めて気づく。と同時に、睫毛の長い澄んだ瞳と目が合った。
「ちぃーっす!」
驚いてばっと一気に頭を上げ身体を引く。背後で、ガラリと扉が勢いよく開いた。
振り向くと、声の主の満先輩と、その後ろに千翔くんと真田先輩が立っていた。私の心臓はまだ驚きでバクバクと鳴っていた。
「アリスちゃんじゃん!久しぶり!⋯⋯ん?どうしたの?」
満先輩が、何も言えずに口と目が開いたままの私に首を傾げる。が、私が答える必要はなかった。
「ああ、今日は目覚めがいいなぁ」
背後で彼が起き上がる気配がした。のんびりとした少し癖のある声に、びくっとする。そして、その声を聞いて急に眉間にシワを寄せてずんずんと大股で近づいてくる真田先輩に、ぎょっとする。
「久しぶりだなあ、ばかいちょう」
いつも以上に低く冷たい真田先輩の声に震え、彼が私のわきを通り過ぎると同時に、扉の方へ逃げる。満先輩と千翔くんも驚いている様子で、3人で扉の前で固まって息をのむ。
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