眠り姫

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 しかし、今何と言っただろうか。 「(さく)!今まで姿を見せずにどこで何をしていた?いや、いい言わなくて。どうせどこかで昼寝でもしていたんだろう。いや違うな、お前の場合は昼じゃなくてもいつでもどこでも寝るからな。とにかく、文化祭の準備で忙しくなってくるこの時期に、生徒会長であるお前が不在とはどういうことだ。無駄にいい頭脳を活かせずに何が会長だ。表舞台での挨拶も俺に任せきりで⋯⋯」  真田先輩は彼に向かって一気にお小言を並べる。息継ぎもままならなそうな早口に、私たちは唖然とする。  説教は、約10分は続いたと思う。その間、扉の前の私たちは、その場で身を縮めて彼らを見守っていた。いつも生意気な態度の千翔(ちか)くんも、呆れた目で見ていたが、肩を(すく)めて黙っていた。  例の彼は⋯⋯苦笑いを浮かべて真田先輩をなだめつつ、説教を聞いていた。まじめに聞いていたのかは分からない。  私はずっと、真田先輩が最初に言った言葉が気になっていた。机の上で寝ていたあの人を、会長と呼んだ気がした。 「(しゅう)。ごめんてば、秀。後輩たちが困ってるから、今はこの辺で⋯⋯」  彼の言葉にやっと説教が止み、真田先輩はこちらを一瞥する。そして、彼に向かってあからさまにため息をつき、私たちに座るよう促す。 「すまないな。里見と有里(ありさと)は、こいつのこと知っているか?」 「俺は知ってます。何度かここで会ったので」  千翔くんは即答するが、私は真田先輩の苛立った雰囲気に戸惑ってしまう。しかし私の名前を覚えていたのか、と頭の隅で思う。 「彼女は、学校では初めて見る顔だな」  説教されていた彼が代わりに答えてくれたので、私も頷いて肯定を示す。先ほどのことが気まずくて、彼とは目を合わせないようにしていた。 「そうか。有里、君には言っておこう」  私は、何が告げられるのかと、思わず身構える。 「こいつが一応正式な生徒会長だ」 「一応は余計だよ、秀」  やはり、聞き間違えなどではなかった。 「でも、会長は真田先輩では⋯⋯」 「役割は一般生徒には発表されていないからな。皆、勝手に俺が生徒会長だと思っているだけだ。俺は副会長だ」  真田先輩の言葉は、にわかには信じられない。1ヶ月ほど前に発表された生徒会役員は5人。京介くん、亜紗美、真田先輩、満先輩と、あともう1人2年の女子。会長だという彼は、役員であることすら発表されていない。
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