眠り姫

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 真田先輩は納得していないような私を見て、言葉を続ける。 「感じてはいるだろうが、こいつの存在は意図的に知らせていない。君もなるべく協力してほしい」 「協力⋯⋯」 「僕が表舞台に姿を見せないのはね、知られてない方が生徒会の仕事をする上で動きやすいからなんだ。だから、君にも秘密を守ってもらいたい」  なんだか生徒会が怪しい組織のように聞こえる。  けれど、彼が生徒会長だと知られていない方が動きやすい、というのはなんとなく分かる気がした。何故かというのは、一目見れば分かる。  男女ともに惹かれてしまうようなその容姿は、普通にしていても生きづらそうだ。そこに生徒会長というラベルが加われば、更に人が寄ってくるのは目に見えていた。  私は笑顔をつくって頷く。 「それならば、先に名乗るのが常識かと」  この場の誰もが、ぎょっとしたように私を見た。まさか強気で言い返すとは、思っていなかったのだろう。私もおそらく、普段ならこんな態度は取らない。何かが、私を突き動かしている。  会長という彼も、驚いたようにぽかっと口を開けていた。初めてまともに目が合う。彼はすぐに目を細めて笑みを浮かべる。 「それは申し訳なかった。僕は朝霧高校生徒会長、2年1組の(やなぎ)(さく)。よろしくね」  差し出された細い手を、ぺしりと叩きたくなる。本人は無自覚だとしても、媚を売るようなキラキラとした笑顔は気に触る。黙って寝ていた眠り姫の方が、よほど美しかった。  私は今、不機嫌で、動揺していた。  何かが、私を突き動かしている。意識と無意識の狭間にある何かが。  彼は無視された手を苦笑いで誤魔化して引っ込め、それでもなお、私に笑顔を向ける。 「ところで、君は生徒会じゃないよね?どうしてここにいるの?」  彼の笑顔に微妙な変化があったことに気づいたのは、きっと私だけだろう。私も負けじと、満面の笑みを浮かべる。 「生徒会長はとても心の広いお方で、ここはいつでもオープンだと聞きましたので」  ふふふと笑うと、彼もあははと笑った。 「誰かなそんなことを言ったのは」  彼の雰囲気が変わったことに、今度は他の人も気づいたようだ。 「俺は、はなからダメだと言ってあった。里見に関してもな。勝手に許可を出したのはお前だろう、満」 「ええっ押しつけはよくないよ、秀くん。最終的には黙認してたじゃん!ていうか朔ちゃんも、千翔ちゃんの時はオッケーって言ってたじゃん!」  慌てて言い訳をする満先輩。結局全員緩い気がするが。
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